26.05.29
世界最高水準の
姫路天然ガス発電所は、
どのように建設されたのか?先輩に学び、現場でこだわり抜いた、
若きエンジニアの5年間
取材・執筆:Daigas STUDIO 編集部
Daigasガスアンドパワーソリューション(株)
発電事業部 姫路発電所 保全チーム
兼 大阪ガス(株) 電力事業部
電力技術部 姫路発電建設チーム
天野 友貴
*所属は取材当時
兵庫県姫路市の海沿いに建設が進められてきたDaigasグループの「姫路天然ガス発電所(以下、本発電所)」は、2026年1月1日に1号機、同年5月1日に2号機が運転を開始した。
本発電所は、世界最高水準の発電効率を実現するとともに、同方式の発電所としては60Hzエリアで1機あたり世界最高水準の発電出力を有し、関西エリアの電力供給を支えている。
なぜ姫路に、このような発電所が建設されたのか?設計~建設~試運転~運転開始までにどのような苦労があったのか?本発電所の計装・制御システムを担当した天野友貴に話を聞いた。その裏には、発電所の安定稼働を目指した若きエンジニアの試行錯誤があった。
CHAPTER
01
安定供給とCO₂削減を
両立する仕組みとは
生成AIの普及や半導体拠点の拡大を受け、日本政府は2040年に向けて国内電力需要が増加すると予測している。一方で、企業は脱炭素対応を進める必要があり、発電事業者は安定供給とCO₂排出量の削減の両立を求められている。
2026年1月に1号機の運転を開始した本発電所は、その両立を実現している。
従来の石炭火力の発電効率が約40%であるのに対し、本発電所は約64%(低位発熱量基準)と世界最高水準を誇る。1機あたり62.26万kWの発電出力も、60Hzエリアで同じく世界最高水準だ。

なぜ本発電所の発電効率は高いのか? その理由のひとつが「ガスタービン・コンバインドサイクル方式(以下、GTCC)」の採用だ。GTCCとは、天然ガスを燃焼して作り出した高温・高圧ガス(以下、燃焼ガス)でガスタービンを回し、その排熱で作った蒸気で蒸気タービンを回して発電する方式だ。1度の燃焼で2度発電でき、効率を高めることができる。
もう一つの理由が、燃焼ガスの高温化だ。Daigasグループの既存大型発電所では1,300℃級のガスタービンを使用しているが、本発電所では1,650℃級を採用。燃焼ガスは高温になるほど膨張し、ガスタービンを効率良く回せるため、世界最高水準の高効率を実現できる。


発電効率が高い上に、本発電所の燃料は石炭や石油よりもCO₂排出量が少ない天然ガスだ。そのため、本発電所は同規模の石炭火力発電と比べ、CO₂排出量を約65%も抑えられている。
本発電所の特徴は環境面だけではない。天野は姫路に建設したことにも理由があると語る。
「近くには、燃料である天然ガスを供給するDaigasグループの姫路製造所があり、燃料を供給するための配管が短くて済むなどの理由から、建設コストを抑えられました。また、大阪の泉北地域にある既存の発電所から離れた姫路に建設することで、有事のリスクを分散することができます。」

CHAPTER
02
建設して終わりではない
止まらない発電所に欠かせない
「計器」と「自動運転」
天野が本発電所の建設チームに加わったのは、入社3年目の2021年のこと。建設に係る設計部門の中でも「計装・制御システム部門」を任された。
同部門のミッションは、発電所の運転に係る設備をセンサーで監視し、収集データをもとに運転状況を最適に制御すること。緊急時には安全に停止するための役割も担っており、いわば発電所の“神経”と“脳”にあたる中枢部門である。
発電所は建設して終わりではない。天野のような発電事業者のエンジニアには、設計段階から、運転段階の安定稼働・保守性・操作性を長期目線で考えることが求められる。
天野がまず目を付けたのが、「計器」だ。計器とは、発電所の運転状況を監視するためのセンサーのこと。計器に不具合があれば、発電所の運転状況を正確に把握できず、運転継続に支障をきたす恐れがある。

天野は、発電所内の1000個以上の計器を1つずつ評価。故障時に別の計器で代替監視できるかを確認し、難しい場合には予備センサーを設置するなどの対策を考えた。中でも注力したのが、本発電所の試運転の実績データから運転状況を予測し、別の計器を用いずに代替監視する高度な対策であった。メーカーと1から予測方法の検討を行い、検証までやり遂げた。結果として、どの計器が故障しても安全に運転を継続できる発電所を作り上げた。

次に、天野が取り組んだのが、自動運転の領域拡大だ。
多くの発電所では、数回のボタン操作で発電所を自動で立ち上げたり停止させたりすることができるが、停止時間や気温・大気圧などの条件によっては、イレギュラーな手動操作が発生するケースがある。本発電所の試運転時にも、手動操作をせざるを得ないケースが発生した。
本発電所は、4名の運転員で1・2号機の発電設備を運転・監視する計画となっていた。ヒューマンエラーの回避や省力化には、自動運転の拡大が欠かせない。試運転時に手動操作が発生するたび、制御ロジックの改善で手動操作を削減できないか、メーカーと地道に協議を重ね、自動運転の領域を拡大した。

「発電所の安定稼働のために、細かい部分までこだわり抜いて設計し、試運転で徹底的に確認を行いました。今後数十年にわたる発電所の安定稼働に貢献できたと思うと、何事にも代えがたい達成感を得ることができました。」
CHAPTER
03
実務経験ゼロのエンジニアを
支えた、
先輩たちの熱い思い
安定稼働に自信を見せる天野だが、発電所の建設に携わったのは、実はこれがキャリア初。建設チームは約10人(そのうち計装・制御システム担当は3人)。メンバー全員が天野よりも先輩で、ほとんどが発電所での勤務経験を持っていた。
配属当初の天野は、何百ページもの設計図書を読み込み、要求仕様の確認や未確定機能の協議に取り組んだ。しかし実務未経験に加え、コロナ禍のフルリモート勤務で発電所のイメージがつかめず、業務に身が入らなかったという。
そんな天野の意識を徐々に変えたのが、同チームの先輩たちだった。
「先輩は皆、“どこよりも良い発電所を作る”という熱い思いを持っていました。私も当初は不安を感じていましたが、先輩たちは私の質問にも丁寧に答えてくれました。やがて不安は“早く先輩たちに追いつきたい”という憧れへと変わっていきました。」

ある先輩は、本発電所の設計段階より前の約5年間(計画~意思決定の段階)の経緯や苦労を天野に伝えた。別の先輩は、自分が過去に設計した発電所に天野を連れて行き、自らが設計した発電所が形になり数十年も残り続けるやりがいを語った。そのうちに天野は、先輩たちが築いた苦労や歴史の上に今の業務があると実感した。
天野は先輩たちに追いつくためにより知識習得に励んだ。やがて先輩の力を借りずにできることが徐々に増え、メーカーのエンジニアに対しても自身の意見を進言・提案できるようになり、自分が作る発電所に愛着と自信を抱くようになった。
設計開始から約5年、建設工事着工から約4年が経った2026年1月、本発電所の1号機が予定通り運転を開始した。続く5月には2号機の運転もスタート。2機合計の発電出力は一般家庭約100万世帯に相当する124.52万kWであり、Daigasグループの国内火力電源容量は約200万kWから約320万kWへ増加した。
| 仕様 | 備考 | |
|---|---|---|
| 発電効率 | 64% (低位発熱量基準) |
・世界最高水準 (参考)従来型汽力発電方式:約40% (参考)従来型GTCC発電方式:約50~60% |
| 発電出力 | 124.52万kW (1・2号機合計) |
・世界最高水準 ・一般家庭の約100万世帯分に相当 ・姫路市の全世帯の2倍以上に電力供給できる規模 |
| CO₂ 排出量 | 65%減 | ・同規模の石炭火力発電比 |
| 敷地面積 | 220,000㎡ | ・甲子園球場の約5倍 |
| 防音壁の高さ | 40m | ・ビル10階に相当 |
CHAPTER
04
「ここで働きたい」と
思われる発電所へ
安定稼働を支える鍵は“愛着”

運転開始を迎えた天野は、その達成感に浸る間もなく、業務ルール作り、メンテナンス体制の整備、初期トラブル対応に取り掛かった。発電所の完成はひとつのゴールだが、同時に発電所を止めず安定して電気を供給する新たな任務のスタートでもあった。
「私は本発電所の信頼性を確保することはもちろん、運転・メンテナンスのしやすさ、働きやすさで“No.1”の発電所にしたいと考えています。
特にこれからの運転フェーズでは、働きやすさを重視し、『ここで働きたい』と多くのメンバーに思ってもらえる発電所づくりが、最重要任務と考えています。なぜなら自身の経験から、発電所への愛着がメンバーのレベルアップを促し、トラブルの未然防止や迅速な対応につながると確信しているからです。
本発電所の運転開始が近づくにつれて、チームには自分より若手のメンバーも多く配属されました。今度は自分が、先輩たちから受け取ったバトンを次世代に繋ぐ番だと感じています。設計・建設で得た経験や知識を共有し、本発電所を深く知り、愛着を持つ人を増やしたいです。」
発電所が止まることなく電気を生み続けるように、天野らメンバーによる安定稼働に向けた挑戦もまた続いていく。
私にとっての挑戦とは
天野 友貴
2019年入社。姫路製造所でガス製造所の省エネ化・システム化・予算管理などを経験した後、2021年より姫路天然ガス発電所の建設プロジェクトに参画。計装・制御システム担当として、センサー1000個以上の評価設計やメーカーとの仕様協議、発電所の試運転を主導し、2026年1月に1号機の運転開始を実現。現在は保全チームにて設備の維持管理と組織づくりに注力する。
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