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Interview Report

革新的な大気浄化技術でジャカルタの
環境改善に挑む

Interview Report 革新的な大気浄化技術でジャカルタの環境改善に挑む

掲載日:2019.06.14

高活性炭素繊維(ACF)による
大気浄化技術とは!?

インドネシアの首都、ジャカルタ。
交通渋滞の激しい幹線道路沿いでは、大気汚染が深刻な問題となっています。
その対策として効果を期待されているのが、革新的な大気浄化機能を備えた大阪ガスの「ACFユニット」。
現在、幹線道路沿いの病院前で約50mにわたって設置され、大気汚染物質の低減効果を測定中です。
ACFユニットは果たしてジャカルタ市民の救世主となりうるか?
国境を越えて活躍する環境技術の最前線に迫るべく、ACFユニットの開発担当者を訪ねました。

優れたNOx除去機能を持つ大阪ガスのACF。

そもそもACFとは何なのでしょうか?

ACFとは「Activated Carbon Fibers」の略で、日本語では「高活性炭素繊維」と呼ばれる素材です。もとになっているのは、軽くて強い素材として知られる炭素繊維で、その表面に穴をいくつも開けたものが活性炭素繊維です。ACFは従来の活性炭とは異なり、10~20μmという微細な炭素繊維の表面に、1~2nmの極小の穴(ミクロポア)が均一に形成されているのが特徴です。それにより、有害物質を吸着して除去するスピードが、従来の活性炭に比べて10倍以上速い点が大きな強みです。皆さんの身近なところでは、ご家庭にある浄水器のカートリッジに用いられています。

そもそもACFとは何なのでしょうか?

そのような素材をなぜ大阪ガスが?

大阪ガスではかつて石炭から都市ガスを製造していたのですが、その際、石炭由来の副産物がいくつか出ます。そのうちの一つが液体のコールタールで、何とか有効活用できないかと研究開発に取り組んだ結果、固体化してACFを作り出す技術を開発したというわけです。

そのような素材をなぜ大阪ガスが?

それがどういう経緯で大気浄化に活用されることになったのですか?

大学の研究結果で、大阪ガスのACFは優れた窒素酸化物(NOx)除去機能を持っているというデータが出たのがきっかけです。そもそもACFはNOxを酸化させることによって硝酸イオンに変換し、清浄な空気として送り出す機能を持っています。実はACFには原料の違いによっていくつか種類があり、他のメーカーでも異なる種類のACFを製造販売しています。その中で、大阪ガスのACFが最も酸化作用が大きいというデータが出たのです。

それがどういう経緯で大気浄化に活用されることになったのですか?

それはラッキーでしたね。

はい(笑)。加えて、ACFは一度NOxを吸着した後でも、水洗いをすれば効果がまた戻るという性能も確認され、耐久性においても優れていると大学の研究者から太鼓判を押されました。

それで大気浄化に用いようと?

道路沿いの排気ガスを除去する技術は、ずっと以前からいろいろと開発され試されているのです。ところがどれも巨大な装置になりがちで、費用対効果から普及が進みませんでした。しかしACFなら、電気も使わず、軽微なメンテナンスで長期間使えるものができるのではないかということで、国土交通省からオーダーを受けるかたちで実用化に向けた開発を進めました。

約半年で完成させたスピード開発。

そしてできたのが「ACFユニット」ですね。

そうです。開発がスタートした時点で、すでに国道に設置する工事日程が決まっており、約半年で完成まで持って行くスピード開発を迫られました。現場で設置しやすいようユニット状にしようと考えたのですが、そのユニット内にどううまく風を通すかという点には苦労しました。

右に見えているのが実験装置

右に見えているのが実験装置

風を通す?

動力を使わないため、自然風と車の走行風を利用して空気をユニット内に送り込むのです。ただしその際、ユニット内に配置したACFフェルトに触れながら、上手に風が通り抜けようにする必要があります。そこで、内部をちょうど段ボールのような構造にすることを思いつき、ACFフェルトと通気性セパレーターを交互に配置することによって、前面から背面へと吹き抜ける平行流を作り出すことに成功しました。風洞試験を行いながら、何十台も試作品を作った成果です。

ACFユニットの内部構造

ACFユニットの内部構造

完成したACFユニットを実際に設置した結果はいかがでしたか?

NOxの観測データによると、1日およそトラック2000台通行分に相当するNOxが減少したという結果が出ました。大気浄化に非常に有効であると言ってよいかと思います。

完成したACFユニットを実際に設置した結果はいかがでしたか?

インドネシアでスタートしたNOx低減
実証事業。

実証事業のために設置されたACFユニット / インドネシア政府関係者とJICAメンバーとともに

実証事業のために設置されたACFユニット / インドネシア政府関係者とJICAメンバーとともに

その後、海外に目を向けたと聞きました。

今日の日本では、道路環境が整備されて渋滞が減ったり、EVなど低公害車が普及したりと、市場としては縮小傾向にありました。そこで、まだ大気汚染問題が強く残るアジアの開発途上国で役立てようと考え、JICAが公募していた「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」に応募しました。

それはどのような内容ですか?

対象国はインドネシアで、正式には「インドネシア共和国 ACF大気浄化ユニット普及促進事業」と言います。ジャカルタの都市部では深刻な交通渋滞により、大気汚染物質であるNOxの濃度が非常に高く、若年層のぜんそく患者率も日本の数倍に達しています。そのため2018年9月、JICAの協力のもとで、まずはACFユニットをジャカルタ幹線道路沿いに設置し、大気中のNOx濃度の低減効果を測る実証事業を行うこととなりました。実証データでNOx低減効果が認められれば、それを足がかりに今度は、NOx低減を目指した本格的なACFユニット設置へとつなげていきたいと考えています。

実証事業はいつまでの予定ですか?

2019年9月まで実施し、その後、効果検証に入る予定です。ACFユニットはイニシャルコストだけで、ランニングコストはほぼかからない、環境にも財政にもやさしい製品です。ぜひ次の展開につながる結果を出し、インドネシアの大気汚染低減と健康被害軽減に貢献したいものです。

その他の展望について教えてください。

ACFは、吸音性に優れた素材として知られるグラスウールと同等の吸音性能を持っているので、大気浄化と防音という2つの機能を活かした遮音板を開発しました。こちらは今後、需要が拡大するのではと期待しています。

その他の展望について教えてください。

これからが楽しみですね。

とにもかくにもまずはインドネシアでACFユニットの大規模施工を行い、本格的な普及を目指したいと思います。そうなれば、大阪ガスの大気浄化技術の評価も高まり、研究開発担当である私も苦労が報われる思いです。こうして今後も、これから伸びゆく国の発展を環境技術面からサポートしていきたいと考えています。

プロフィール

吉川 正晃

エネルギー技術研究所
バイオ・ケミカルチーム

吉川 正晃

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